高齢者の医療費の仕組み
■後期高齢者医療制度の導入の理由
後期高齢者医療制度は、前回に述べたような健康保険など、医療保険財政への圧迫をこれ以上増すことを避けるべく、導入されただけではありません。
それまでの老人保健制度では、保険料を納める保険者と、これを使う市町村の財政や運営の責任が不明確であったり、若者と高齢者との費用負担がわかりにくかったり、また、加入する制度や市町村により、たとえば国民健康保険の保険料の場合、最大で5倍もの格差があったりするなどの問題もあったからでした。
そこで、自公政権当時、一定の年齢以上の者はすべて国民健康保険、または健康保険などに加入し、各保険者の責任によらない年齢構成の違いによる医療費を拠出金によって賄うリスク構造調整案、あるいは被用者のOBである高齢者は健康保険などの被用者保険の対象とし、その保険の負担によって支える突き抜け方式などの4案などが検討され、いずれの案がもっとも理想的なものであるのか、国会で審議されました。
その結果、75歳以上の後期高齢者について別立ての独立した医療制度を創設し、2008(平成20)年4月から導入されたのが後期高齢者医療制度、というわけです。
具体的には、これまで75歳以上(生活保護受給者は除く)、または65~70歳未満で一定の障害があると認定された者(同)は国民健康保険、または健康保険などに加入しながら老人保健制度によって医療を受けていましたが、同月、これまで加入していたこれらの公的医療保険を抜け、新たに独立した後期高齢者医療制度に加入して医療を受けることになりました。
運営主体は都道府県ごとに設置された後期高齢者医療広域連合および市町村で、保険料は2010(平成22)年度現在、1人当たり年間約6万3300円ですが、国民年金から老齢基礎年金しか受けていない場合、同4200円に減額されます。ちなみに、広域連合とは後期高齢者医療制度の運営を担うため、都道府県ごとに設置された特別地方公共団体で、各都道府県内のすべての市町村が加入することになっています。
この後期高齢者医療制度に係る医療費のうち、患者が医療機関で支払う窓口の自己負担を除いた分を公費、すなわち、国、都道府県、市町村が全体の約5割、残りの約4割を現役世代からの支援、すなわち、若年者の保険料、他の1割を後期高齢者が納める保険料で賄います。肝心の患者の自己負担はこれまでどおり、全体の1割に押さえられましたが、現役並みの所得がある場合、同3割と高めに設定されることになりました。
■限度額を超えれば高額療養費を支給
ただし、外来の場合、月額1万2000円、外来プラス入院の場合、同8万0100円+医療費が同26万7000円を超えた場合、超えた額の1%を加算した額、また、4回以降、同4万4400円を超えた場合、その超えた額がそれぞれ高齢者療養費として支給されます。もっとも、同一世帯内で医療費と介護保険の自己負担額を合算し、限度額(月額56万円。現役並み所得者の場合、同67万円)を超えた場合、超えた額がやはり高齢者療養費として支給されることになっています。
その主な対象者である75歳以上の後期高齢者は同年度現在、約1400万人、また、医療費は同年度予算ベースで総額約12兆8000億円となっており、このうち、給付費は約11兆7000億円、患者負担は約1兆1000億円に上っています。
なお、65~75歳未満の前期高齢者に係る医療制度は、従来どおり、前期高齢者の加入者数に応じ、国民健康保険の交付金と協会けんぽ(旧政府管掌健康保険)などからの納付金によって賄う財政調整制度によって運営することになりました。対象者は約1400万人、また、その給付費は同年度予算ベースで約5兆3000億円に上っています。
ところが、この法改正案は、折しも国民年金や厚生年金の加入記録の管理のずさんが明らかになったため、多くの年金受給者から「消えた年金」、あるいは「宙に浮いた年金」として問題となっているにもかかわらず、自公政権は強行採決しました。
そのうえ、この後期高齢者医療制度の適用者は75歳以上の後期高齢者と年齢を区分し、新たな保険料の負担を求めるもので、しかもその保険料は年金から天引きということであったため、当事者はもとより、多くの国民のひんしゅくを買い、昨年9月の衆議院総選挙で、制度の廃止をマニフェスト(政権公約)に掲げた民主党が圧勝し、政権交代が実現することになりました。
老人保健施設に期待する高齢者たち(都下の老人保健施設にて)
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