落語ワクチン ~その1「文違い」
前々回このコーナーで、「落語は人生のワクチン」との名言を吐いた私ですが(自分で言うなよ!)、今回はその具体例として、「文違い(ふみちがい)」という落語をご紹介しましょう。
その昔、お杉という新宿で働くお女郎さん(注1)がいました。
この女性、とてもしたたかな女性で、自分の恋焦がれる男にお金を貢ぐため、「半ちゃん」と「角蔵」という2人の男から、「夫婦になるから」とウソをついてお金を巻き上げ、でも実際は、自分も男に騙されていたというストーリーなんです。
かつて、三遊亭円生師匠(注2)という昭和の大名人が十八番とした、微妙な人間関係、細やかな人物描写を施さなければ伝わらないという、いやあ難度の高い噺です。
さて、吉原の世界を描くかような廓話(くるわばなし)(注3)の中で、「冷やかし千人、客百人、間夫(まぶ)(注4)が十人、色一人」という言葉が出てきます。
これは、「大多数の通りすがりの中で、お客としてお店に通う客はその10分の1、続いてその中で、『この人はいいお客さんだなあ』と思うのがその10分の1、そして、『この人ならお金なんざいらない。もう夢中!』と思ってしまうお客はというと、さらにその10分の1」という意味なんですな。
言わば、この「お店の女の子が本気で惚れるのは1000分の1」という確率は、昔から変わらないのでしょう。
その証拠に、これらを現代に置き換えてみると、キャバクラ(注5)に通う男たちから貢がれた金で、キャバ嬢たちは自分の大好きなホストに貢ぐという図式と見事合致するんですから。
落語は深いですな。「文違い」を始めとした廓話を聞いていれば、まず「ストーカー殺人事件」なんざ、未然に防げる訳なんです。
「プロの女性は昔からそんなもの」とズバリ言い切っちゃってるんですぜ。ね!
てなわけで、私・談慶は、キャバクラよりも、寄席通いをお勧めしております。
【注2 三遊亭円生師匠】ご存知大名人。昨年亡くなった三遊亭円楽師匠の師匠。亡くなった昭和54年9月3日は、奇しくも上野動物園のパンダの死んだ日と同じ。
【注3 廓話】廓とはいわゆる「プロの女性に相手をしてもらう場所」であり、そのような世界を舞台にした落語のこと。廓話には、「紺屋高尾」「三枚起請」など名作が多い。
【注4 間夫】情夫のことであり、「花魁の恋人」としての存在。「フツーの客とは違う」「俺こそがホンモノの恋人」だと、フツーの客に思わせるのが花魁のテクニック。
【注5 キャバクラ】「手の届きそうなそこそこ美人(芸能界で言うなら、森口博子とかはしのえみあたりのゾーン)」が、何故か一番人気になるという不思議なお店。ワタシは手銭では行ったことがない。
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。