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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter66「複数の治療法から一つを選ぶようにいわれたが…その6」

 前回の続きです。前立腺がんが見つかったGさんの治療方針を巡り、6か所の病院で、手術をする・しないの見解が分かれてしまいました。どうしたらよいか決めかねているGさんは、奥様や娘さんと一緒に、今後の治療方法について医療コーディネーターに相談しています。

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 D病院で自分の余命は一年と聞いたGさん。かなりの精神的ショックを受けました。検診では見つかりにくいがん、性質の悪いがん、手術ができない、再発率が高い、そして余命一年。次々と起こる想像を超える出来事に、気持ちが落ち込み、立て直すまでに時間がかかるのは当然です。私はGさんに「これまでの人生で、向き合うのに時間のかかる大変な出来事が何度もあったと思いますが、そうした出来事にどんなふうに対応してきましたか?」と聞きました。するとGさんは「私はこれまでの人生いつも戦ってきました。そしていつも勝利を得てきました」と語り始めました。仕事で経験してきた大きな裁判の話、家を買ったときの苦労話など、病気とは関係のないエピソードを熱く語るGさんを見て、家族は呆気に取られていました。私は黙って話を聞きました。

 溜まっていたものを吐き出すかのように語ったGさんは、話の終わりにこう言いました。「どんな困難にあっても、最後まで諦めずに粘り強く交渉してきたのが私だ。私の辞書に『諦める』という文字はない。今回の病気も決して諦めない。データに基づいた医療を行うと医者は言うが、私のがんは特別ながんだと思う。データ通りに当たり前の治療をしていたのでは決して勝てないだろう。だから、総力戦で、積極的に戦いたい。体の中にがんを残したまま治療するというのはどうしても納得できない。勝つためには、全て取り去らなくてはいけないと思う。私は手術がしたい」

 娘さんはこの言葉を聴いて喜び、ほっとした面持ちでした。私は「いつこのような気持ちになったのですか?」と聞きました。Gさんは、「D病院で余命一年と言われた時、このまま座して死を待つわけにはいかないと思いました」と答えました。そして、「手術をしてはなぜいけないのでしょうか? 根拠を基に手術できないというけれど、その根拠は平均的な人を集めて出した根拠でしょう? 私のがんは普通のがんではありません。ですから、普通の治療をしてもだめだと思うのです」と言いました。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
医療コーディネーターへのご相談は以下のサイトからどうぞ。
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