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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter58「私が受けたい治療に家族が反対している その5」

 前回の続きです。Bさんはがんの手術をしたのですが、数か月後に再発していることを医師から告げられました。Bさんの娘Rさんは別の医師に新しい治療をしてもらうことを主張しました。そこでBさんの思いを知るために、これまでの診療の経緯をBさんの口から振り返ってもらいました。

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 最後に、処方されている薬を見せてもらうことにしました。Bさんが持ってきた薬の中に、飲み薬の抗がん剤が入っていました。Bさんに「この薬は何のための薬か知っていますか?」「いつ処方されたものですか?」「今飲んでいますか?」と聞いてみました。Bさんは、大切な薬だとは聞いていたが、はっきりと何の薬かは知らない。退院後に出された薬だが、一錠飲んで非常に体調が悪くなり、もう絶対に飲みたくないと主治医に伝えたところ、中止になったので今は飲んでいないというお返事でした。私はその薬が抗がん剤であること、人によっては飲み薬の抗がん剤でも副作用が辛くて続けられない方がいること、主治医は手術後何も治療をしていなかったのではなく、治療をしようとしたけれど、ご本人が治療を希望しない、という理由で中止したのだということを伝えました。Rさんは、抗がん剤治療をしていたことを知らず、驚いていました。そして、自分が通院に付き添い、もっと詳しく状況を両親に確認していれば、そのことに気付くことができたのではないかと振り返りました。

 私はBさんに、抗がん剤だと知って、この薬をもう一度続ける気持ちはありますか?と尋ねました。するとBさんは、もう2度と飲みたくない。とはっきりと答えました。私は最後にBさんに、自分の治療について何か希望はありますか?と尋ねました。するとBさんは、「私は絶対に入院だけはしたくない」と答えました。しかしRさんは、「治療のためなら入院はしなくちゃだめよ!」と即座に答えました。Bさんは黙ってしまいましたが、私が水を向けると、「家族がどうしてもというなら入院するよ。でも、一週間以上の入院は絶対に嫌だ」とはっきりと言いました。

 するとBさんの奥さんが、「前回の入院は長かったものね。よほど辛かったのね。私も入院はして欲しくないわ」といいました。ここにきて初めてRさんは、Bさんがそこまで入院を嫌がっていることに思いが至ったように見えました。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
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