Letter53「もっといい治療はないか? その4」
前回は、脳出血後のAさんが誤嚥性肺炎を起こして入院し、その主治医から家族にお話があると告げられたところまでお話ししました。家族は、主治医からの話は病状回復後の転院についてだと思い、次の病院探しをしていましたが、医療コーディネーターは、Aさんの治療の可能性について、今後の見通しについて話があるのではないかと予測していました。
このように、医療に詳しく、現状から先の予測がある程度可能な人とそうでない人とでは、同じ主治医の言葉を聞いても理解する内容が違うことがあります。特に患者さんと親しい人や家族の場合は、無意識に悪い予測をしないという心理が働くようです。客観的にみればかなり厳しい状況にある時でも、元気になった後の未来のことを考えていることが多く、そこが医療者と家族のギャップともなります。
Aさんの場合では、まず医療コーディネーターは、予測される医師の話の内容について家族に伝えました。その上で、家族が医師に聞いておきたいこと、確認すべきことについて話し合いました。すると家族は、病状が厳しい場合リハビリ病院への転院の可能性はどの程度あるのかを医師に聞いてみたいと言いました。
さらに医療コーディネーターは、これまでの病院の説明や検査の結果から、物を飲み込む働きが回復する可能性は低いように思われることを家族に説明しました。すると家族は、仮に転院できるまで体が回復すれば、飲み込む機能は回復する可能性があるのかどうかを医師に聞いてみる、その上で、今後の転院先を検討したいとのことでした。
こうして家族は主治医との話し合いに向かいました。その内容はやはり今後のAさんの回復は難しいというお話でした。転院に関しても、今は検討できるような体調ではないこと、検討できる時期が来た時に再度話し合いたいこと、飲み込む機能については病院を変えたから、リハビリをしたからといって回復する可能性は低いのではないか、というお話でした。
「もっと良い治療法を知りたい」。現在の治療に行き詰まりを感じれば誰もが思うことでしょう。しかしそのためには、まず現状を把握することが大切です。そして、家族が患者さんへの思いを持っていればいるほど、冷静に、正確に把握することは困難です。まずは現在の主治医や看護師など、医療に詳しい人との十分な話し合いが必要です。土台があってこそ、その先の選択肢を考えることができます。
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