Letter43「ドラッグ・ラグをご存知ですか? その1」
がんの治療は日進月歩です。新しい治療法を開発しようと医療関係者は日夜研究を進めています。効果のある治療法が見つかれば、その結果を広く公表して、臨床現場でも迅速に最新の治療法が行われる、それが日本の医療現場だと信じている方は多いと思います。
しかし現実は違います。がん患者さんの抱える問題の一つ「ドラッグ・ラグ」(海外では標準的に使用されている薬剤であるにもかかわらず、日本では承認されていない状況)です。
例えば、国内で肺がんに対して承認されたジェムザールという医薬品があります。その後の研究で、ジェムザールは、すい臓がんにも卵巣がんにも、その他多くのがんに対して効果があることが分かってきました。ジェムザールは、1998年に日本で承認され、副作用も血液毒性(赤血球や白血球、あるいは血小板を減少させる副作用)以外の目立ったものはなく、外来でも使いやすい薬です。
卵巣がんの患者さんたちは、ジェムザールは安全で海外では卵巣がんに関して効果があると分かっているのですから、すぐにでも使用したいと思うでしょう。特に(日本で承認されている薬剤では)もう治療法がありません、と言われた患者さんや、現在の治療法の効果が低く、もっと効果のある治療法を待ち望んでいる患者さんには何にも代えがたい朗報です。
しかし日本では、これまで医薬品に関して「薬事承認」=「保険適用」というルールが存在し、また、同じ薬であっても部位ごとに、それぞれ承認申請することが求められています。
これにより時間、コストの問題などの理由から、企業が承認申請をすることをためらうという状況が生まれています。そのため患者は、効果があることは分かっているのに、日本にいるために使えない、という命と制度のはざまで悩まされ続けてきました。
ジェムザールの卵巣がんに対する適応は、海外では既に81ヶ国以上あり、先進国はおろか、東南アジア、アフリカ諸国もほとんど承認されています。適応されないのは、日本か北朝鮮かというレベルになってきています。先進国と呼ばれる日本で、なぜジェムザールが使えないのでしょう?仕方がないと諦めていて良いのでしょうか?
次回に続きます。
※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。