Letter18「医師のスキンシップ その2」
前回のコラムでは、往診に来て下さったB医師に対して、Hさんというがん患者さんから「スキンシップが多くて、どうも信頼出来ない」と相談されたケースをご紹介しました。
最近は医師への批判の中に、医師の対応が冷たい、パソコンばかり見て患者の顔を見ない、身体を触って診察しない、などがよくみられます。しかしB医師は、しっかりと診察をし、優しい物腰、言葉使いでスキンシップも多く、理想の医師のように思えます。
では、なぜHさんはB医師を信できないと感じたのでしょうか?
思い当たることが一つありました。
Hさんは患部の手当てを自分で1日2回行っていました。我慢強いHさんでしたが、いよいよ身体が辛くなってきたため、訪問看護を利用して手当てを手伝ってもらいたいと考えたのです。
そこで意を決してB医師にその旨を伝えたのですが、訪問看護についてはケアマネジャーと相談する、と言って明言を避けたまま帰られてしまいました。今日からでも利用したいと思っていた訪問看護がいつから来てもらえるのか分からず、手当ができなくなる不安は解消されず、思いが伝わらない不安がさらに生まれました。
つまり、HさんがB医師を信頼できないと感じたのは、スキンシップが多かったからではなく、不安を解消してもらえなかったことにあったようです。もしもB医師がしっかりとHさんの不安を解消し、この医師なら頼ることができる、と感じていれば、過剰に思えたスキンシップは丁寧な診察と頼りがいのある医師という評価に変わっていたかもしれません。
最近は、医師の国家試験に患者と医師の間のコミュニケーションに関して出題があったり、医学部の授業内で模擬患者さんを相手に、実際の対応方法を学んだりもします。少なくともこの10年で、医師の間にコミュニケーションの重要性は浸透していると感じます。
しかし、コミュニケーションは技術を知っていれば良いというものではないのが難しいところです。スキンシップも、問題は量ではなく、患者と信頼関係を築こうという気持ちがあるかないかです。患者さんは医師を信頼したいと切望しています。だからこそ、医師の気持ちを患者さんは敏感に感じ取ることができるのだと思います。
良い医師とは何かを考える際に分かりやすいエピソードだと感じたケースでした。
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