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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter16「薬局で「今日はどうなさいましたか?」と聞かれたら その2」

 前回は、とある薬局で私が違和感を持ったやりとりを再現しました。今回は、そのやり取りから考える理由と対策について述べてみたいと思います。

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 私が薬局で感じた違和感、それは

 (1)なぜ公衆の面前で自分の病名を言わなくていけないのか
 (2)医師と相談して決めた処方にもかかわらず、それを薬局であらためて確認されるのはなぜか

 という2点でした。そこでその理由を知人の薬剤師の方にお聞きしました。

 理由は、薬剤師法第25条の2で、「薬剤師は、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、調剤した薬剤の適正な使用のために必要な情報を提供しなければならない。」と決まっているからということでした。

 さらに、薬剤について最も詳しい医療職は薬剤師であること。また、医師も人間ですから間違うことがあります。処方について、医師だけではなく薬剤師が、処方の内容、量、似たような薬剤と処方を間違っていないか、などの確認を行っています、ということでした。

 それでは、なぜ薬の説明をするために病名を聞く必要があるのでしょうか? それは、薬の用途が病名によって変わることに理由があります。例えば、ステロイドという薬剤は、アレルギーを抑えるために使われることもあれば、倦怠感(だるさ)を抑えるために使われることもあります。薬剤師は薬の名前がわかっても、病名や症状が分からなければ、間違いの有無の確認や使用法の説明をすることが出来ない場合があるのです。しかし、現在の処方箋には病名が書いてありません。そこで、薬局では患者さんに病名を聞く必要が出てくるということでした。

 説明を聞いた後では、このシステムが患者さんの安全を守るためのものであることが良く分かります。かかりつけ薬局でも新しい薬局でも同じ対応がなされていたことも理解できました。

 そこで、新しい薬局で感じた違和感についてもう一度考えてみたいと思います。
 まず、かかりつけ薬局でのやり取りを思い返してみます。私は病名を自分から言うのではなく、薬剤師が周囲に聞こえないような小さな声で、病名を推測して確認してくれていました。また、私に質問する場合は「医師からどのように説明されていますか?」「どのような症状が出ていますか?」など、答えやすい質問をしてくれていたのです。実は細かな配慮があったのですね。

 とはいえ、このような配慮がない薬局を利用されている方に朗報があります。4月から法律が変わり、病院や診療所ではこれまでよりも詳細な明細書が発行されています。そのため、患者さんご自身が明細書を薬局に提示することで、ある程度処方の理由を薬剤師が推測できるそうです。ご自身で紙に病名を書いて提示するのも良いと思います。

 病名というのは患者さんにとって重大なプライバシーです。私が医療コーディネーターで相談を受けるとき、顔を合わせるまで病名を決して話して下さらない方もいます。病名を口にしただけで泣き崩れてしまった方もいました。第三者に語ることでもこれだけの抵抗があるのです。自分の家の近所で、誰が聞いているか分からないところで病名を語ることが辛い、と感じるかたも多くいらっしゃるでしょう。

 医療者は相手の気持ちを推測する想像力とコミュニケーション能力がいかに重要かということを身をもって実感した出来事でした。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
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