喋々喃々(ちょうちょうなんなん)
タイトルの『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』とは、男女が楽しげに小声で語り合う様子をいいます。何となくタイトルに惹かれて読んでみることにしました。著者は、映画化もされた『食堂かたつむり』の小川糸さん。『食堂かたつむり』と同じように、この本のなかにも、あなご寿司、すきやき、鳥鍋、ポテトサラダ、天丼…、それからモンブラン、子鯛焼き、あずきオ・レ、いちごシャンデ…など、たくさんのおいしいものが登場します。
主人公は、東京の谷中でアンティークの着物や和小物の店を営む栞(しおり)さん。あるとき、木ノ下春一郎さんという男性が栞さんのお店にやってきて一着の着物を買います。その着物を初釜に着て行くという木ノ下さんに、栞さんがお茶を立ててごちそうしたり、そのお礼にと木ノ下さんが食事に誘ったりするうちに、お互いに少しずつ惹かれ合っていきます。でも、木ノ下さんの左の薬指には、結婚指輪がありました…。
新春、梅、花見、鳥待ち、五月雨、風待ち、文月、秋風、菊、小春、雪待ち、春待ちと読み進めるとともに、季節も二人の恋もゆっくり巡っていきます。恋心や家族との葛藤が日暮里、鶯谷、上野、湯島、千駄木などの下町の風情とともに丁寧に描かれている小説です。読み終わったあと、心のなかがほっこりとあたたかくなりました。そして、巻末のマップを参考に、このあたりをゆっくりお散歩してみたくなりました。
(by マキコ)