赤ちゃんの死へのまなざし
待ち望んだ赤ちゃんを誕生とともに失う――。これ以上の悲しみがあるでしょうか。
死産は、家族はもちろんのこと、関わったすべての人に深い悲しみを与えます。医療従事者にとってもたいへん辛いことです。この悲しみの中で、医療従事者はプロとして患者さんに少しでもよいケアをしようと努力しています。
ほんの5年前まで、亡くなった赤ちゃんに母親が会うことは「ショックを受ける」「忘れられなくなる」という理由で、かないませんでした。しかし、会わないことがかえって精神的なトラウマやしこりになることがわかり、現在では、亡くなった赤ちゃんに会い、抱っこして、写真を撮り、一緒に一晩過ごすというようなケアが一般的になってきました。その一方で、「会って、抱っこさえすればいい」というマニュアル化が進んでしまったことも事実です。本書は、そんな現在の周産期のグリーフケアに警鐘を鳴らす1冊です。
第1、2章では、小児がん患者のソーシャルワーカーであった井上文子さんと、社会福祉系大学で講師をしていた夫の井上修一さんが、待望の第一子・和音ちゃんを予定日直前に亡くし、死産され(2005年7月26日)、次の子を出産し、現在に至るまでの5年間の体験談が綴られています。その時の経過、悲痛な思い、医療者へ望むことが丁寧に述べられています。
続いて、助産師として井上さんの死産のケアにあたられた長谷川充子師長(湘南鎌倉総合病院)と、次の子の出産に向けたアドバイスをされた竹内正人医師(東峯ラウンジクリニック)を交えて行われた座談会が収録されています。言いにくいことも含めて、率直に当時のことを語り合うなかで、「赤ちゃんの死」への思いを一緒に紡いています。それは周産期の枠を超え、人のありようや、生き方にも踏み込んだ、社会へ向けてのメッセージになっています。
ここにおいて「赤ちゃんの死へのケア」はマニュアル化できない、人間対人間のケアである思いを実感します。周産期のグリーフケアはケアで一番大切なこととはなにか。その答えがあります。
そして、最終章の竹内正人医師の「赤ちゃんの死」という視点への気づきと実践は、産科の医療現場を大きく変える提言になっております。竹内医師のメッセージは医療者必読です。
死産体験者は人生でもっとも辛く悲しい出来事が起ったときに、病院で適切なケアを受けなかったと涙を流しています。一方医療者自身も、日々悩みや課題を抱えながらも振り返ることもできずに仕事を続けています。本書は、そうした人たちへ向けて、少しでも励ましと癒し、そしてお互いに救われるような医療を提供できるヒントになる書であり、医療者はもちろん、お子さまを亡くされたご夫婦・ご家族、そして、医療者以外の多くの方々にも広く手にとってもらいたい1冊です。
(by てらこ)