荒地の恋
『荒地の恋』というタイトルとカバー画が印象的で思わず買ってしまった一冊。一言でいってしまうと、中年男が親友の妻と恋に落ちる、なんてことのない不倫ものなのだが、その登場人物に強く惹きつけられる。男は新聞社で校閲の仕事をしながら創作する詩人北村太郎、親友は無頼派詩人の田村隆一。
サラリーマン詩人の北村は「たったこれだけ」と言われるほど作品が少なかった。しかし田村の妻・明子に出会い、恋をし、今まで積み上げてきた生活を失った彼は、精力的に詩作をし、翻訳もこなすようになる。二人の恋は常に田村を意識したものであり、同じく詩人である著者の手によって、それぞれのエゴが生々しく描かれている。それがまた彼らの生き生きとした様子を伝える。
本書を読んで感じたことはふたつ。ひとつは、人は日頃さまざまなものに縛られて生活している。そうしたものから解き放たれて、自分に正直に生きたとき、輝くものかもしれない、ということ。もうひとつは、詩人という、ことばで表現することを生業とする人たちは魅力的なのだな、ということ。60歳を過ぎてなお、若い女性にもてる様子に「ああ、羨ましい」、思わずそんな言葉が出た。
(by うしお)