「雲外蒼天」――頭上に雲がたれ込めて真っ暗に見える。けれどその苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な青空を望むことができる――


　幼い頃、顔相を見た易者にそう言われた澪（みお）。水害で両親を喪い、助けられた大坂の名料理店・天満一兆庵で腕を磨いたが火事により店を失い、やむなく江戸に出てくることになる。
　初めは上方と江戸の味の違いに戸惑い、客に受け入れられずに悩むものの、努力と工夫でこれまでになかった料理を出し、たちまち人気店に。しかし、その人気を妬み有名店があの手この手で澪の店に妨害をしてくる。これでもか、とばかりに彼女の前に立ちふさがる困難を乗り越えて、常に一生懸命な彼女をついつい応援したくなるし、またそんな姿に励まされる。


　悩む澪に救いの手をさしのべる武家、小松原。澪に亡き娘の姿を重ね合わせ常に支えてくれる「つる家」の主人種市。お互いに助け合いながら天満一兆庵の再興を希う女将、芳。彼女の周りの人たちもそんな彼女を助けてくれる。
　そして作品中に出てくる、ぴりから鰹田麩、ひんやり心太、とろとろ茶碗蒸し、ほっこり酒粕汁といった澪のつくる料理が、彼女の料理に対する愛情に溢れていてなかなかに魅力的。


　さまざまな困難に立ち向かっていく澪の頑張りと、これから彼女が一体どんな料理をつくり出すのかが楽しみ。そして、吉原一の人気花魁となった幼なじみの野江との再会は叶うのか。
　これまで時代小説は堅苦しいからと敬遠していた人におすすめです。