コスモスの影には
いつも誰かが隠れている
いつも誰かが隠れている
「この本はいいよ」と勧められて、読むことがよくあります。特にそれが信頼している人だったり、ひそかに憧れている人だったりしたときには、注文までして読んでみたい衝動に駆られます。
この本は、秋田のちいさな出版社「無明舎出版」の舎主、安倍甲(あんばい・こう)さんが旅先に手にして、「いい本に巡り会えた」と語ったものです。
私自身はこれまで藤原新也さんの本を読んだことがありませんでした。「藤原新也」に恨みはないけれど、写真家、画家、小説家と八面六臂の活躍を耳にするにつけ、きっと器用な人なのだろうと勝手に敬遠していましたが、安倍さんがそう言うなら、と探して読んでみました。
私小説めいた、それでいて幻想的な物語が集められたアンソロジーです。一篇一篇、確かにきれいにまとまっていて、添えられた写真がすべてを物語る構成になっています。
ただそれだけだったら、きっと同じような書き手は数多いると思うのですが、この本にはどこか無常な佇まいがあり、それが一瞬の切ない輝きを放って、小説をかけがえのないものにしています。写真家が切り取った日常のなかの非日常的風景がそこにありました。
写真家であり画家であり、小説家でもある意味が少しわかったような気がしました。
(by こゆき)