さぶ
ある日、栄二が盗みの罪を着せられ、信じていた主人や先輩からも疑われてしまう。傷つき、自暴自棄になった彼は世の中すべてが敵だと、頑なに心を閉ざしてしまう。さぶにも、彼のことを心からおもう女性にも。
人足寄場に送られた栄二は、自分の受けた屈辱を晴らすことだけを心の支えに、周りの誰とも口を利かずに日々を過ごす。しかし、次第に自分のことを兄弟のように心配し、労り、励ましてくれる周りの人々により、それまでの自分が、自分のことしか考えていない苦労知らずだったと気づかされる。決して自分一人の力で生きてきた訳じゃない、周りの人々に支えられて生きてきたのだと。
そして栄二は人足寄場まで会いに来たさぶに、それまであまりに当たり前すぎて言ったことがなかった礼を言う。
お互いが身内のように気にかけあい生きていく義理人情の世界。「勝ち組」「負け組」と声高に叫ばれ、「勝つこと」が礼讃される今の世の中ですが、弱者には弱者なりの強く美しい生き方があるのだと教えられる。(by うしお)