ふつうの医者たち
ところが私たちはどこか、医師に対しては、人格も含めた全人的な期待をどこか抱いてしまいます。「お医者さんには揺るぎない判断力と信念と包容力をもっていてほしい」と思っています。
しかし、医師のほうも同じように悩み、時には力の限界を感じたりするのだということにはなかなか思いが及びません。
臨床経験を積むなかであまりにも多くの死にふれ、自分のこころが疲弊してしまった医師・南木佳士(なぎ・けいし)氏は、これまでかかわりのあった医師の経験や考え方に、虚心坦懐に耳を傾けます。
家族を連れて発展途上国での医療活動を行う人、日本の結核医療に力を尽くした人、難病研究に自分を生かす道を見つけた人など、バラエティに富んだ経歴の持ち主が心を割って話をします。
そこでみえてくるのは、誰も最初から立派な医師じゃなかったのだということです。医師を続けるなかで「契機」となる出会いや出来事があり、それぞれ本物の医師として歩み出します。
ひるがえって、職業人としての自分はどうなのだろうかと思わずにはいられません。あれが自分の契機だったと思えるような出会いや出来事を見逃さないような感性を持ち合わせていたいと、心に刻みました。
(by こゆき)