生物と無生物のあいだ
著者・福岡さんは、研究の過程で遺伝子が一つ欠けたマウスをつくります。そのマウスは完全にGP2遺伝子が欠損しているため、膵臓細胞ではとてつもない膜の異常が展開しているに違いないと期待し、顕微鏡を覗きます。ところが、まったく正常な細胞が目の前に広がっていたというのです。
混乱し、落胆し、自分たちの方法の瑕疵を疑い検証し…を繰り返した結果、一つの言葉に行き当たります。生命は機械(メカニズム)ではなく、動的平衡のなかに存在する。
私たちは、日常のなかで出会う神秘めいた出来事に頭を垂れる瞬間があります。
昨年咲いた花が今年もまた芽息吹いたとき。
赤ちゃんの産声を聴いたとき。
全盲のピアニストが人びとに涙させる旋律を奏でたとき。
そんな心動かされる一瞬と、科学が細胞レベルで解明しようした試みの先に見たものは、同じ地平にあるのかも知れません。(byこゆき)