被差別の食卓
そうした食べ物は時代や社会性、そして地域性などを色濃く反映し、口にすれば時に懐かしく、時に複雑な思いに駆られます。いわゆる「ソウルフード」です。
著者のソウルフードは母親の作る「あぶらかすと菜っ葉の煮物」でした。牛の腸をカリカリに揚げて塩などで味つけした「あぶらかす」を、菜っ葉とごった煮にするという料理だそうです。彼の生まれた「むら」では普通に食べられていたものでした。
この「あぶらかす」。かつて「(被差別)部落」と呼ばれた地域に根付く食文化であり、道路を挟んだ向かい側の地域では食べたことも聞いたこともない食べ物でした。
著者は自身の体験と思いから、こうした独自の食文化を世界中に尋ね歩き、みずからの五感で味わいます。
アメリカ、ブラジル、ブルガリア、イラク、ネパール。そこには、世界中に通底する「抵抗的余り物料理」の凄みがありました。
そして最後に日本へ立ち返り、「むら」の食文化について著者は記します。前述の「あぶらかす」も今やブームになるほどメジャーになり、「さいぼし」も上質な馬肉で作るなど、微妙な変化がありました。
「抵抗的余り物料理は「おいしい」などという生易しいものではない」としながらも、その丹念で素朴な筆致からは、優しさのような、著者のソウルフードへの深い情が感じられます。そのせいか、私も彼の旅に同行して見聞し、味わったかのような充実した読後感でした。(byこゆき)