33個めの石―傷ついた現代のための哲学
同じ東アジア人の学生が加害者だったことも、32人の学生・教師が亡くなったことも、私たちの記憶に深く重く刻み込まれました。
その後、大学キャンパスに32個の追悼の石が置かれたそうです。亡くなった被害者の数を表します。
そこに石がもう一つ、そっと足されたそうです。32の命を奪った加害者の学生を悼む石。取り除かれては、まただれかが置いたと言います。
著者は、さまざまな事件や事象、自身が体験したエピソードをひきながら、哲学の小径をたどってみせます。読み進むにつれ、現代人の思想、とくに上記の事件にからむ「赦し」についての思いは、わたしにそれができるのか、自問自答せずにはいられません。
おりしも、私たち“一般人”が他者を裁くという「裁判員制度」が始まります。自分の価値観や倫理観がじかに試される時代に、どこにその座標軸を置くか。
だれかの人生に大きく影響を与える場面に立ち会うときにそれを考えたのでは、遅すぎるのかもしれません。(byこゆき)