命
批判されるのが怖いからである。
だから人は、ある事実を述べるとき、内容を取捨選択し、時には脚色さえする。
ところがどうだろう、この柳美里という人は。自身に起こったことを、勧善懲悪に語る。その口調の潔さの心地いいこと。小説を地で行くような彼女の人生、流麗な文章から目が離せない。
彼女は、ある既婚者と不倫関係になり、その男性の子どもを身ごもる。ところが出産が近づくにつれ男性の態度が怪しくなり、結局、出産を目前に控えて別れてしまう。その別れ方も最悪だ。
不器用な彼女は1人では育てられない。そこで、10年来の「大切な人」である東由多加と2人で生活をはじめる。しかし東はがんに侵されていた……。
本書は「命」4部作の第1幕にあたる。彼女の幸せを願い、わがままさに辟易し、不器用さにため息をつきながら、苦笑い。一緒にいたら地獄か天国だろう。
彼女の生き方を「戦っている」とか「わがまま」と評する人もいる。だが私は、ただ素直に生きているだけのように感じる。つまり、素直に生きるということは、それだけ難しいことなのだろう。(byてらこ)