アンゴスチュラ・ビターズな君へ
店の名前は「ア・ラ・カルト」。
場所は、東京都渋谷区神宮前5丁目53番地、青山円形劇場。
20年前から続くこの店、実は劇団「遊◎機械/全自動シアター」(2002年活動終了)のメンバー(白井晃さん、高泉淳子さん、陰山泰さん)を中心とした役者と、ヴァイオリニスト中西俊博さんを中心とした音楽家が織りなす舞台劇です。
アラカルトの名のとおり、食前酒、前菜、メイン料理、デザートと、話はオムニパス形式で展開され、その都度役者が、オーナー、ギャルソン、客に入れ替わり演じ分けます。
この本は、劇団時代から脚本を手がけ、主演も務める高泉さんが、舞台のエッセンスを凝縮して書き下ろした一冊。恋人と別れ一人でやってきた女性客。子どものころから、隣の10歳年上の酒屋のお姉さんに恋するそば屋の跡継ぎ。フランス料理の店で、キャラメルマキアートのトールサイズを注文する小学生と、離れて暮らしているその父。誰もが少し不器用、そして滑稽。でも、そんな日常の一瞬は限りなく温かいものです。
最近、右を向いても左を向いても先行き不安になる話ばかり。押しつぶされないためには、ほんの一時俗世を忘れ、自分を取り戻す時間を持つことが必要だと切実に感じます。
ちなみに、下戸の私は知りませんでしたが「アンゴスチュラ・ビターズ」とはお酒の名前だそう。それだけ飲んでもきつくて苦いだけなのに、ほかのお酒に数滴落としただけでとたんに風味引き立てる魔法のリキュールなんだとか。(byまめたま)