約束の地で
5つの短編からなるこの小説、題材はそれぞれ、親子関係、借金、少年犯罪、DV等々。やがて特異な事件に発展していく出来事が、芽を出し、日常の中で育っていってしまう過程を追っていくうちに、その心情が理解できてしまうことに驚きます。息を潜めて枯れ葉を踏みしめる感触、誰もいない広大な大地に一人佇む開放感、風に舞い頬を撫でる雪、そんな晩秋から初冬にかけての北海道の空気を肌で感じながら物語は進みます。
特筆すべきは、5編は各々独立した物語でありながら、前の物語の中にちょい役で登場した人物が、次の物語では主要人物として描かれている点。一人の人間を、赤の他人からの視点と、本人もしくは近親者からの視点で体感することによって、つくづく人間が多面性をもった生き物であるという事実を実感します。
先にこの本を読んだ友人は「救いがない」と言いました。敢えて救いを求めるとすれば、どの話にも引き返すチャンスはあったこと。引き返せなくても、それでも人は生きていくという事実そのものでしょうか。
多面性をもっていることは悪いことではありません。あんなに明るく、優しかった北海道の風景も、まもなく冬を迎えれば、ときに圧倒的な厳しさを見せつけることでしょう。「内包された強さ」、それが今回の旅で感じた北海道の魅力の一つであることを思い出しました。(by まめたま)