雨と夢のあとに
どうしても思い出したくない古傷もあります。
そうしたトラウマめいた記憶が、この作家の名前を見る度なぜか湧き起こり、これまで手に取ったことがありませんでした。
先日、会社近くの小さな本屋に立ち寄った折、書棚に彼女の『命』がささっていました。ふと手が伸ばして手に取り、何となく買って帰りました。
帰りの地下鉄、降りる駅を間違えるほど、柳美里の『命』に取り憑かれ、それから今日まで、彼女の本を読みながら会社に通い、帰り、ご飯を食べ、ベッドに入りました。
そんな熱狂の只中、本書『雨と夢のあとに』に行き当たりました。「ホラー小説」というふれこみに戦きつつ、深夜、頁を繰りました。
最後の数頁は嗚咽が止まらず、読み終えたとたん声を上げて大泣きしている、不惑近くの私がいました。
究極の愛とか友情の証とか親子の絆とかナンとかいう、ちんまりした言葉ではとても形容しきれない、深く切ない物語。(byこゆき)