励ます弁当
「励ます? お弁当が? どういうこと?」
実は、書店で初めて手に取ったとき、タイトルの意味が分かりませんでした。しかも、ページをめくってみると、いきなり「きっかけは痴漢だ」という言葉から始まってびっくり。先を読みすすめていくと“ちょっとだけふつうじゃない”筆者の日常や旅先で起こった、珍奇なエピソードが次々に展開されていきます。
そのエピソードの背景には、“ちょっとだけふつうじゃない”筆者が育まれた、“いささかふつうじゃない”家庭の姿があります。東京のど真ん中でアカデミックな祖父と父を中心とした一家は、ユニークで不器用で素直な愛情にあふれていたそうです。
筆者の父は、出された目玉焼きが半熟でないと起こりだすほどのかんしゃくもちで、カレーの色が気に入らないと怒鳴りつけるなど、日頃から家族を悩ませます。しかし、筆者の夢見枕で話してくれる「ゴンベエ」の話は、一転してとても鮮やかで楽しい親子の姿を見せます。とても振幅が大きいですが、しっかりした親子の形があります。
親子の絆には色々な形があります。親子の間にしか伝わらない共通言語を持っていたりしますので、周りの人間には理解しづらくとも愛情表現であることはしばしばあります。時には手をあげたりして、一歩間違えば虐待と言われてしまうようなこともあるかもしれません。
本書で描かれている親子関係も、“ふつう”には理解しづらいものもあります。それでも、親が一生懸命に自分の生きる姿を見せて、その様を子どもが素直に受け止めている様は、とても素敵な親子関係を感じさせてくれます。
そして、親は子どもを育てる際、ときには褒め、またある時には叱り、励まし、ともに喜びます。しかし、子どもの成長につれ、それはいずれ一方通行ではなくなり、子が親を褒めたり、叱ったり、励ましたりすることもあります。本書の場合、「弁当」というかたちになって表現されてます。もし、本書を手に取られた方は、この書名と同じタイトルの一編を読んでみてください。思わず、ほんわか&ニヤリとするとともに、本の書名にもきっと合点がいくと思います。(byまっと)