5年3組リョウタ組
ふと思い出した。あの頃、教員住宅の一室に住んでいた彼女の部屋に遊びに行ったとき、大切に飾ってあった生徒達からの寄せ書き。とはいえ、相手は年頃の子ども達だ。何人かの言葉にはネガティブなものもある。こっちだってまだまだ傷つきやすい年頃だ。彼女から生徒達の愚痴など聞いたことはなかったが、教師という仕事の大変さを垣間見た気がした。
主人公は公立小学校で5年生の担任を受け持つ25歳の青年、中道良太。
「学級崩壊」、「モンスターペアレント」、「少年犯罪」…現代の教育現場で教師を取り巻くシビアな問題が、良太や周りの教師達に降りかかる。中には、執拗かつ狡猾な上司からの「いじめ」による、先生の不登校といったものもある。
この物語で興味深いのは、そんな「事件」が、「なぜ起こったか?」ではなく「どう対応するのか」に重点が置かれているところだ。そして、どんな局面でも最終的に教師を支えるのが自身の生徒達への愛情であることを知る。教師ほど、何度も何度も「なぜ自分はこの職業を選んだのか」を自分に問う職業は少ない。そして、一人の人間の成長過程に影響を及ぼす職業も。いままで、相手にそれを強いる気がして敢えて使わなかった「聖職」という言葉が思い浮かぶ。
問題は複雑だが、夏目漱石の『坊ちゃん』を思わせるよう設定された同僚教師達や、港町の風景、子ども達の描写が爽やな読後感を与えてくれる。作者があとがきで言っているように「子どもたちも、学校も、きっとだいじょうぶ」と思いたい。すべての始まりは「教育」にあるのだから。(byまめたま)