空中ブランコ
言うこともやることもムチャクチャである。
“世間の常識”などはお構いなし。
あくまでもマイペース。
精神科医・伊良部一郎はそんなキャラクターの持ち主である。
伊良部医師の診察室に、心の病をかかえた患者が訪れる。
空中ブランコにうまく乗れなくなったサーカス団員、先端恐怖症のヤクザ、義父のカツラを剥ぎ取りたい衝動がおさえられなくなる医師(伊良部の同窓生)……。
藁にもすがる思いでやって来る彼らに対し、“注射フェチ”の伊良部医師は、まずビタミン剤の注射から治療を始める。そして、マイペースで患者を患者とも思わないような扱いでのカウンセリング。患者は、困惑するやらあきれるやら。
それでも、伊良部医師が放つ天性の魅力に引き寄せられ、診察室に足が向かう。
そして、ドタバタとしたやりとりが繰り返される中で、気づけば心が軽くなり、心の病が治ってしまう。
破天荒ながらも、さりげなく解決の糸口を教えて示してくれる(本人にはその意識はまったくないが)のが伊良部医師の魅力。
周囲の視線や評価などは全く無縁で、思うがままに行動する姿には小気味よさすら感じられる。
登場人物だけでなく、読者の心も軽くしてくれることは間違いなし。
もしかしたら、伊良部医師は究極の“癒し系”なのかもしれない。(byこりん)