月の砂漠をさばさばと
例えば、500メートルの道のりを歩くとします。多くの大人は7〜8分でたどり着いてしまうでしょう。でも子どもは一生懸命歩いても20〜30分かかってしまうこともしばしば(みなさんもかつての記憶にありませんか?)。
それは、歩幅や体力の違いから来るものもあるでしょうが、ある本によると、目に飛び込んでくる情報量が子どもと大人で圧倒的に違うため、いろいろなものに興味を惹かれて、気になってしまうからという説も。つまり、花や虫を発見したり、違う景色を見つけたり、といった“道草”のことですね。
大人のほうが歩くことに集中する力があるから、という言い換えも可能ですが、子どもの頃に持っていた、何でも楽しむことができる能力を知らず知らずに抑えてしまっているとしたら、個人的には何だかもったいない気もしてしまいます。
さて、この本ですが、9歳の女の子さきちゃんと作家のお母さんが主人公の12編のショートストーリーです。
物語は小さな「言いまちがい」から始まります。さきちゃんとお母さんのちょっとした世界観のズレから、日常の生活の中に生まれる小さな出来事。さきちゃんの素直な感覚を、お母さんは子どもの視点に立って一緒に楽しんでいます。
とはいえ忙しい毎日の中で、いつでも小さな出来事を精一杯楽しむことができる、ということは現実には難しいので、ちょっと理想的だなぁと感じることもなくはないです。でも読み進めていくうちに、お互いが素直に接することができる関係性に、穏やかさや確かさを感じました。著者の文章が持つ、温かな空気感も安心感の要因なのでしょう。「ダオベロマン」がいるような町を一度歩いてみたいな、なんて考えてしまいました。(byまっと)