国境のハーモニカ
本書の主人公の西原は、小さな鋳物工場で働く、いわゆる中年の労働者。貧乏だった幼少時代に出会った在日朝鮮人との記憶を、ずっと心の片隅で後悔しながら生きてきた。
その後悔を整理し直す鍵となるのが、ハーモニカであり、働く中で出会った在日外国人達との関わりである。西原は、差別をしたくないと思いながらも、また世間の波に流されてしまう。その葛藤が、読んでいるこちらも苦しくなるほど伝わってくる。
池永さんは、人間の感情を描き出すのがとても巧い。本書は、決して明るい小説ではないが、それでも、人と人との関わりには、あたたかいものがあるということを感じさせてくれる。
多かれ少なかれ、人の胸の内には、差別してしまったこと、素直に好きだと言えなかったこと、いろんな後悔が積み重なっているのだろう。人は日々、小さな後悔を抱え生きているのではないだろうか。
池永氏の小説は、そんな僕らの後悔を思い出させ、でも絶望では終わらないように、希望を残しておいてくれる。(byおへそ)