ぶらんこ乗り
主人公は小学生の女の子である「私」と、三つ年下で、頭が良くて、いたずら好きで、みんなの人気者で、そして誰よりぶらんこに乗るのが上手い天使のような「弟」。
弟は夜になるとノートに書いた「おはなし」を、「私」に聞かせてくれます。生まれてからずっと空中で暮らす空中ぶらんこ乗りの夫婦の話、聞く人それぞれの懐かしい人の声に聞こえる不思議な声を持つ「ゆうびんやさん」の話、動物園の象が無邪気に遊ぶ玉が、実はハトの死骸でできている話…。哲学的で、感動的で、ときに残酷なその話の数々は、そのまま弟のもつ優しさと、深い孤独を表していたことを「私」は知ります。
日々の生活の中で、大切な相手からの「優しさ」やSOSを、ちゃんと受け止められているでしょうか。たとえ瞬間的でも、空中で愛情と信頼をもって手を握る空中ぶらんこ乗りの夫婦のように。そんな気持ちのやりとりができていれば人は真の孤独とは無縁でいられるものかもしれません。
洗練された易しい文章と、独特のテンポに惹かれ読み進むうちに、だんだん癒され、再生していくような不思議な感覚に包まれました。この感覚は懐かしい…そう、初めてサン=テグジュペリの「星の王子さま」を読んだときのことを思い出しました。どちらも、優しく、切ない物語です。そして、淡々と「人は一人である」ということ、「決して一人では生きてゆけない」ということ、その両方を教えてくれます。(byまめたま)