サクリファイス
レースというからには、「全員が1位を目指してひた走る!」というイメージがあるでしょう。しかし、実はロードレースはエースを勝たせるためにチームが一丸となって走る、その意味で団体競技ともいえます。
チーム員にはそれぞれに役割があります。アシスト役の人は、エースを勝たせるために、風除けになり、荷物(水ボトルや補給食)持ちになり、もしもエースの自転車がパンクしたときには、自らの自転車を差し出します。たとえ、自分がリタイアになっても。
また、ただ必死に走っていると思ったら、大間違いです。ロードレースは1日に約200キロも走るのですが、そのすべてを全速力で走りきることは、さすがのプロにもできません。力を抜くところは抜き、どこで勝負に出るか常に計算して、駆け引きをしながら走っているのです。
ときには急な山道を30キロも登り、時速100キロ近いスピードで峠を下ることもあります。雨の日でもそれは変わりません。
前述のツール・ド・フランスでは、こうしたレースを3週間、途中に移動日(1日を2回)はさんで毎日行います。そして合計3000キロもの行程をチームで協力して走り、優勝を狙うのです。
本書『サクリファイス』は、そんなロードレースの魅力が満載の1冊です。ロードレースファンには、まるでレースを見ているような描写と選手の心理戦に惹き込まれます。ロードレースを見たことがない人には、その魅力がわかる最適の本でしょう。
そして、忘れてならないのは、本書は『このミステリーがすごい!2007(国内版)』において7位にランクインしたミステリーだということです。タイトルの「サクリファイス(犠牲)」が示すとおり、後半、重い謎が主人公に降りかかります。
汗と涙というスポーツの爽やかさ、それに反比例するような陰湿な人間関係……。しかしそれらは、ロードレースというスポーツを象徴しているようでもあります。読後感は重く考えさせられますが、同時に、人間として大切なメッセージを伝えてくれます。本書のオビにある『とにかく読んでみてください。絶対に損はさせません!』の言葉に納得です。(byてらこ)