眉山
美しく生きるということ、美しく人生の幕を降ろすということ。
これを一文字で表すのなら、「粋」といったところでしょうか。
主人公である咲子の母、龍子はまもなく古希を迎えます。35年前、東京神田の出身でありながら、誰も知り合いのいない徳島に移り住み、たった一人で咲子を産みました。人呼んで「神田のお龍」。徳島に暮らせど江戸っ子気質は健在で、面倒見がよく、曲がったことが大嫌い。ただ、咲子の父のことだけは、娘の咲子にも決して話すことはありませんでした。
物語のクライマックス、阿波踊りの桟敷席。長い時を経た人生の最終章で、それぞれの思いを胸に秘めたまま、最後にたった一度すれ違うだけの男女。お互い車いすを押されながら、男は女を見つめ一筋の涙を流し、女は視線を送ることなく、毅然と、命懸けですれ違います。
自分に優しくしてくれる人やモノばかりを際限なく求める昨今、龍子の生き様は、痛みを伴っても、本当に自分を大切にするということの意味を教えてくれます。
男踊りの陽気なイメージが強い阿波踊りですが、「忍耐と形式美に縛られる」という女踊り。その艶やかな様や、伝わってくる高揚感から、是非とも観てみたくなりました。
冒頭、龍子がパーキンソン病の発病をきっかけに、自ら介護保険(介護サービス)の手続きしたことを帰郷した咲子に告げます。一瞬驚かされますが、そこでハタと気づきました。そういう生き方もあるのだと。それまでは漠然と、家族の手(もしくは周囲の人)によって決められることのように思っていたのですが、確かにあり得る、むしろ現実的な話です。
龍子はまた、献体も希望しています。こうした事実に支えられて、人は生きているのですね。(by まめたま)