永遠のとなり
ここしばらく、巷は選挙で沸き立った。
「競争社会がいけないっていうんですか?」「頑張った人が報われて何がいけないんですか?」、そんな言葉がTVの中で飛び交っていた。
博多出身の幼なじみの「あっちゃん」と「せいちゃん」。子どものころから勉強が得意だった二人は、大学進学のため、共に上京。卒業後、「あっちゃん」は銀行員を経て銀座で経営コンサルタント事務所を開業し、「せいちゃん」は大企業の戦士となった。現代社会の中では、間違いなく「頑張って」「勝ち組に入った」二人である。物語はその後、50代を目前にして、「あっちゃん」はがんの発症をきっかけに、数年おいて「せいちゃん」は部下の自殺により自身もうつ病に罹り、会社を辞め、離婚し、帰郷したところから始まる。
天気のいい平日の公園で、自分で握ったおにぎりと、焼き鳥と、ウイスキーを味わいながら、せいちゃんは思う。 「――多様化に限って言えば、バブル崩壊後の日本経済はバブル以前より格段にレベルを上げたのではないか。(中略)私たちの欲望は次々と細切りにされ、その細切れごとに過剰なまでのサービスが用意され、充足させられていく。その一方で、もっと大きくて曖昧で分割のできない大切な欲望、たとえば、のんびり自然と共に生きたいだとか、家族仲良く暮らしたいだとか、本当に困ったときは誰かに助けてもらいたいだとか、病気をしたらゆっくり休みたいだとか、ひとりぼっちで死にたくないだとか、必要以上に他人と競いたくないだとか、そういった水や空気のように不可欠な欲望はどんどん満たされなくなっている」と。
50代目前の男性二人…本を手にしたときは、こういっては失礼だが、小説の主人公にしてはやや地味だな、と思った。失礼を承知で重ねて言えば、なんというかこう、ドラマ性が感じられない気がしていたのだ(本当にすみません)。その勝手なイメージは、彼らが社会から「未熟さ」も「老い」も許されない「完全な大人」であることを求められる世代であるからなのかもしれない。
そんな二人が「あっちゃん」と「せいちゃん」に戻る博多弁の会話は、心地よく、優しく響く。(by まめたま)