釜ヶ崎と福音
しかし、本当にそうだろうか。実は、好きで野宿をしている人はほとんどいない。多くは、仕方なしに野宿を強いられている人たちである。学歴や技術を身につけるゆとりのなかった人が仕事を失い、40代、50代になると再就職は難しい。想像できないかもしれないが、日本には、野宿者を生み出してしまう仕組みがある。
この本は、私たちの野宿者に対するイメージを一新する。著者は、フランシスコ会カトリック司祭であり、釜ヶ崎反失業連絡会共同代表でもある本田哲郎氏。現在、大阪・釜ヶ崎で野宿者支援をしている。
この本の中で本田氏はこう書いている。
「釜ヶ崎で野宿をしている労働者が望んでいることは、炊き出しや衣料の無料配布などではなく、仕事だったということです。今日、食わないと明日どうなるかといった人たちの本音の思いは、できれば炊き出しなんかに並びたくない。できれば自分で働いて食いたい。みんなそう思っていたんです」
多くの人は、他人の世話になどならずに自分で働いて生活していきたいと願っている。その願いが、社会の仕組みや病気、障害、老いなどによって叶えられなくなることが往々にしてある。そしてそんな人たちは、遠巻きにして無視されたり、ただ助けてもらうだけの対象であったりする。彼らは、そんなことなどちっとも望んでいないにもかかわらず。
この本は、私たちがよかれと思ってしていること、当然だと思い込んでいることを、相手の状況を捉え直して考えてみるきっかけを与えてくれる。
あなたの隣にいる人はどうだろうか。できることは自立し、できる範囲で人の役に立ち、家族や仲間と楽しい時間を共有したいと願っているかもしれない。(byおいどん)