すばらしいとき
すこし緑がかった青空。まっ白な雲がゆっくりと形を変えながら泳いでいる。あいさつ代わりにレースのカーテンをゆらし、静かに風が入ってくる。薄く開けたまぶたの隙間から見える空がまぶしい夏の昼下がり。
子どもの頃に五感が体験した気持ちのよい感覚は、大人になっても身体がしっかりと覚えている。特に夏の記憶は強烈だ。遊び疲れてうとうとしているとき、まだ外が明るい夕方6時頃に食べる早めの夕食。風のにおい、べっとりと肌にまとわりつく空気、鮮やかな木々の緑。
ロバート・マックロスキーの「すばらしいとき」という絵本を開けば、子どもの頃に体験した、気持ちのよい夏の日々が鮮明によみがえる。楽しくて懐かしい、そして切ない時間にいつでも行くことができる。
物語はひっそりと始まる。息をひそめて雲の流れを追い、雨音を聞く。シダが育っていく音を聞き、鳥の鳴き声にリズムを刻む。岩から海に飛び込んだら、腕と足を思い切り動かして水中を進んでいく。夜はまっ暗な空に浮かび上がるたくさんの星を眺めながら、静かに眠りにつく。家族で身を寄せあい、嵐が過ぎ去るのを息をひそめてじっと待つこともある。そしてまた、穏やかな朝がやってくる。
夏の終わり、みんな日常へと帰っていく。そして私たちも本を閉じる――。
そんな、夏のはかなく美しい日々が大切に大切に、繰り返しつづられている。
私たちは、この本の中の子どもたちのように、忘れられない日々を繰り返しながら大人になった。
今年も夏が待ち遠しい。泣きたくなるほどすばらしい日々が待っていると信じているから。(byおいどん)