キップをなくして
電車を降りて、いざ改札を出ようとしたら、キップがない! そんな経験、みなさんはありますか? どこを探しても出てこなくて、泣く泣く駅員さんに相談するときの心境たるや、大人も子どもも同じようなものだと思います。以前、私は京都から乗った新幹線のキップをなくしてしまい、東京駅の駅員さんになきついたことがありました。いやぁ、ほんと、冷や汗をかきました。
さて、この本の主人公、記念切手収集が大好きな小学生のイタルは、キップをなくしたことから、とんでもない状況におちいります。「とんでもない状況」って何かをほんとうは書き記したいのですが、これはぜひご自分の目で確かめてください。とにかく、とんでもない状況におちいったイタルは、それにかかわる子どもたちとともに、ドキドキしたり悩んだり、いっしょうけんめい困難を乗り越えようとしたりします。
切手を集めることにだけ熱心だったイタルですが、キップをなくしてから始まる冒険を通して、見違えるほど成長していきます。人間のすばらしさ、生きることのすばらしさ、想う心のすばらしさ。そういうものをどんどん学び、会得していくからです。おとなの私たちはその姿をみて、子どもの可能性を信じずにはいられません。
でも、考えてみてください。おとなだって結局子どもだったわけですから、言ってみれば、「人間の可能性ってすごい!」ということなのです。
明日辺り、キップをなくしてみようか。―― ちょっと、そんな気になる小説です。(byこゆき)
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