ふたたびの恋
表題作である「ふたたびの恋」の舞台を見逃した数か月後、作者の野沢尚氏が急逝され残念に思っていたところ、偶然人づてに私の元にやってきた本。出会いと別れをテーマにした恋愛小説3編が収められた短編集です。
中でも私の心に残ったのは2番目の話、「恋のきずな」。主人公は、単身赴任の夫と高校生の息子をもつ40歳の主婦、聖子(さとこ)。聖子は街で「恋」という文字を見かけても、振り返ることなくやり過ごし、もう自分は恋愛の引退者であると感じながら日々を過ごしていました。ある日、そんな彼女の恋心が思いがけなく動き出します。相手は息子が連れてきたクラスメイト……。まさか!そんあことありえない? いえいえ、そんなことおっしゃるそこのあなた、もしも、あなたの息子さん、お孫さん、あるいは年の離れた弟さんが、友人として「ハンカチ王子」を連れてきたら……? しかも、その彼が自分に好意を寄せてくれたとしたら?
ただし、その恋は、簡単に手に入れてしまっていいものでしょうか? お互いに相手の未来を思うなら、敢えて手に入れない決断が必要なときがあるはずです。
誰に知られることもなく、既成事実さえないこの恋は、目にみえない「きずな」として2人の間に残ります。二度と会うことがなくても、人生の時々にお互いを支え、応援する……そんな特別な存在として。
切なくも、爽やかな読後感の残る1冊です。(byまめたま)