風のガーデン
テレビドラマは外出のままならぬ母にとって唯一無二の娯楽だ。一度ハードディスクに録画したものを私が編集しコマーシャルを全てカットしたものを後日見る。
一度見たものは次々と消していく。毎日のように新しいドラマが放映されるのだから当たり前だが、夜中に手間かけて編集している私には納得のいかない事もある。
戦争や介護がテーマになっている深刻なものはあまり見たがらない。いわゆるサスペンス好きだ。
その母が珍しく気に入って繰り返し見ているのが昨年の秋11週にわたって放映された連続テレビドラマの『風のガーデン』。“家族愛”と“終末期緩和医療”をテーマにしたこのドラマは主役中井貴一さんの父親役で出演していた緒方拳さんが放映開始直前に急逝した事で話題になった。母は別に緒方さんのファンだったわけではないが、このドラマでの演技・台詞には相当感情移入しているようだ。知的発達障害がある孫がいるという設定も感情移入しやすい原因かもしれない。母にとっての末っ子である私の弟も「愛の手帳」3度の知的障害者であるから。
第1話から最終話まで1~2週間おきにかれこれ4~5回は見ているだろう。毎回決まった場所に差し掛かっては泣いている。特に後半の話では泣いている事が多い。そういったあたりを見ている時は話しかける事も拒まれる。うかつに物音をたてる事すらできない。
確かに私が見てもプライベートでがんの闘病中であった緒方さんが配役上末期がんの中井貴一さんを諭すように優しく語り掛けるシーンは感動的なものがある。ドラマにも出てくるように末期がんの痛みの緩和に用いる医薬品は副作用がきつく鬱などの精神障害もおこしやすいと聞いている。少なくとも画面上から緒方さんにそのような傾向を見てとることは出来ない。年齢に負けぬ途轍もない精神力を感じてしまう。
母の年齢では大抵の方が死を意識しているだろう。そんな中、生きている間に何をして何を残すか、そしてどう死んでいくかという事をドラマの中と外から見せていただいたような気がする。
名優緒方拳さんのご冥福をお祈り申し上げます。
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