成年後見制度が進まない理由 1
平成12年に介護保険と同時に成年後見制度が導入されてから8年が経過している。現在わが国では、要介護認定者数が450万人を超え、認知症患者数は約170万人、40万人の知的障害者と250万人の精神障害者がいるという。にもかかわらず成年後見の申し立て件数は累計で約10万件だ。一昨年障害者自立支援法が施行されたことにより、法定後見の申し立てが急激に増えたそうだが、それでも年間3万件程度である。なぜこうも進まないのだろうか?
私自身、平成13年に要介護5の父が亡くなり遺産分割協議書を作成する際、自ら知的障害をもつ弟の成年後見人となるための申し立てを行っている。その経験をふまえて成年後見制度普及の弊害を述べておこうと思う。
まず第1に必要性の認識。従来の措置から契約に変わったとはいえ、要介護者のケアプランも障害者の自立支援策も、事業者や行政と話し合うのは介護や世話をしている身内であって、要介護者・障害者本人ではない。預貯金もキャッシュカードがあれば自由に出し入れができる。金融機関に課せられた本人確認法の適用が厳格化しているとはいえ、自動更新になっている定期預金の解約や要介護者・障害者の本人名義で契約している保険の請求などのケースが無ければ必要性を認識しない。私のように、遺産相続分割協議書の作成をするとか、共有名義になっている不動産等の資産を売却するという事態になるまで申し立てを行わない人も多い。
第2に申し立て窓口が家庭裁判所であること。区役所や都庁などの役所ならいざ知らず、裁判所となると一般市民にとっては敷居が高いものだ。大抵の人にとって、役所ほど近くには無く平日の日中しか対応してくれない。さらに書類には、「成年後見人申し立て事件」と記載される。裁判所では通例なのだろうが、普段そういうことに縁が無ければ「事件」としての扱いには戸惑うだろう。
そしてもう一つ、費用の問題。上記第2の問題点を解消するため、弁護士や司法書士などの法律家に依頼した場合、申し立てだけでも30万円から70万円くらいかかる。自分で申し立てを行っても20万近くかかってしまう。後見人を法律家に引き受けてもらえば、さらに毎年40万円くらいはかかるだろう。
東京都では2年位前から、「社会貢献型成年後見人」の育成を目指し講習を開始しているが、現状での稼動実績は乏しい。各地域の社会福祉協議会も力を入れてはいるが、後見人・被後見人双方への経済的支援が確立されなければ制度普及はありえないと思う。
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