外出の弊害
要介護者が外出を嫌がる理由は、最近のコマーシャルにもあるようにトイレ(排泄)に不安を感じている場合が多い。そしてもう一つ理由にあげられるのは、やはり「周囲の目」であろう。
母が、まだどうにかシルバーカー(いわゆる手押し車)で外出していた頃のことである。病院に行くため、いつものように近くの停留所から都電に乗り込んだが、ちょっと混んでいた。他の乗客の迷惑にならないよう、シルバーカーをなんとか隅に寄せようとしていたら、車内にいた50代くらいの女性から「あんなモノにつかまってまで出かけなくてもいいのに」と言い放たれたそうだ。
この日が母にとって公共の交通機関を利用した最後の日になった。
「疲れたから、帰りは遅くなってもいいから迎えに来てほしい」と母から連絡が入ったので車で迎えに行った。その日はただ「疲れたから……」としか言ってくれなかったが、どうも様子がおかしいので後日あらためて話を聞くと、上記の出来事を辛そうに話してくれた。
その後、高齢な患者の送迎をしてくれるクリニックにリハビリテーションを受けるために通ったが、ここでも送迎の車を運転する若い男性に無神経な言葉をかけられて通院をやめている。今、通っているクリニックでも待合室でよろけてしまった際にぶつかってしまった男性患者から恫喝され、しばらく行きたがらなかった事がある。
私の母に限らず、こんな事から外出する意欲を失い、認知症やうつ病を発症するお年寄りも多いだろう。
荒川区は地形的に坂が少ない。都電に乗っても三ノ輪橋から王子駅前までの15停留所間はほぼ真っ平らだ。シルバーカーや車いすで外出するようなお年寄りや障害者にとっては住みやすい街だと思う。実際、他の地域よりもそうした方々を見かけるケースは多いし、手を差し伸べる人の姿を見かけることもある。一人ひとりがいつか自分に訪れるかもしれない状況に対し、暖かい気持ちで接してくれる環境があれば、介護者の負担も軽減されていくはずだ。
一般社会におけるノーマライゼーションの普及推進を切望している。
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