何のための法律? 制度?
半年くらい前、とある郵便局で簡易保険の請求に来ていたご老人をみかけた。認知症を患った奥様が入院したのでその給付金請求に来たと言う。
郵便局へ足を運んだのは2回目。1回目は「契約者・被保険者が奥様なのでご主人が請求することはできません。代理請求されるなら奥様の“成年後見人”として登記して下さい」と言われて帰されたとの事。
“成年後見人”なんて言葉がわからなかったご主人は、役所へ弁護士の無料相談を受けに行った。すると弁護士から「成年後見人として登記するためには、50万円くらい費用がかかります」と言われた。今回来たのは10万円足らずの入院給付金請求をするため。なのに「何で50万円もかかる成年後見人登記をしなければならないのか!?」という事。
誰だって頭にくるだろう。
正直に言って、以前は簡易保険の契約・請求に関するチェックは緩く、家族名義での加入も多くみられていた。しかし、今は事情が違う。
平成12年に介護保険と同時にスタートした成年後見制度、平成15年に施行された金融機関の本人確認法、平成17年に施行された個人情報保護法、さらに昨今の保険請求トラブルに絡んだ保険業法の適用強化、そして昨年の郵政民営化。こうした法律・制度は本来、社会的弱者を守るためにつくられたはずだ。ところが現実にはその人たちを苦しめている事が間々ある。
個人情報保護法の規定により、保険会社はたとえ配偶者であっても契約者本人の同意なくしてその契約内容を開示する事はできない。もちろん請求書類の代筆など認めてはいない。本人の判断能力が低下ないし失われた時は、成年後見人として家庭裁判所に認められた人間でなければその請求を代行することはできない。
ただ、上記のケースでは保険証券がご主人の手元にあって契約内容を確認できているし、契約者であり被保険者である奥様が、“書類に署名する事ができない理由”を主治医に証明してもらう事により請求できるはずである。その対応が全ての窓口でできていないのも事実だ。
民間の保険会社も保険金・保険給付金の代理請求に関しては対応がまちまちのようだ。成年後見制度にしても各地の家庭裁判所ごとで申立てに必要な書類に差があり、問題視されている。
足早に立法・施行されてきた法律や制度は、エンドユーザーとなる国民の利便性など省みることも無く進んでゆく。
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