介護技術の実践 ベッドでの上体起こし(1)
前回までは床からの上体起こしを行いましたが、今回はその要素をベッドに応用していきましょう。
床での上体起こしをベッドに応用するというと、「靴を脱いでベッドに上がり、膝を落としてクルリと回るのですか?」と言われる方が意外に多いです。しかし残念ながら、それは応用ではなく、そのままになってしまいます。形をそのまま真似るのではなく、あくまでも動きの「質」を活用することが応用につながります。
ベッドでの応用には2つのポイントがあります。今回は1つ目のポイントである「たすきがけに手を差し入れ、自然な起こし方を再現する」を紹介します。
まず、一般的に多い被介助者の肩へ真っ直ぐに手をかける手の差し入れ方で行うと、どうしても力任せになりがちです(写真1)。
(写真1)
これは、腹筋をするように被介助者を垂直に起き上がらせる方向性が出やすいからです。単純に腹筋をすることを考えても、なかなか大変な動きです。ましてや介護が必要になった方が腹筋をする動きをしたらと考えると、それはかなりの負担になります。そして、介助者も同時に負担がかかってきます。
そこで、普段多くの方が行う身体に負担がかからない起き上がり方を考えてみると、仰向けから横を向き、頭が半円を描いていくような起き方になるでしょう。
ただ、その動きを腕の力で引き出そうとすると、肩や腰を痛める原因になるので、自動的にその動きを引き出せる手の差し入れ方を工夫します。それが「たすきがけ」の差し入れ方です。
まず反対側の肩を上げ、隙間の空いている首筋から斜めたすきがけに手を差し入れます。その時に手の平からではなく、手の甲から差し入れます(写真2)。
(写真2)
なぜなら、手の平からだと、肩が上がり腕だけの力に頼りがちになりますが、手の甲からだと、肩が上がらず、背中と腕とが連動し、全身の力が引き出せるようになるからです。
そして手の甲で抱えるとゴツゴツしているため、ソフトな手の平から抱えるようにします。しかし、漠然と手の甲から手の平を返してしまうと、腕だけの力に逆戻りします。
そこで、手の甲から差し入れた時に背中に適度な張りがあるかを感じます。張りがあれば、背中と腕が連動している証拠です。その背中の張りを保ったまま、手の平から抱えるようにします。そのためには、手首だけをクルリと返していきます。すると手の平からでも腕だけにならず、背中全体で被介助者を包むように抱えることが可能になります(写真3)。
(写真3)
これで、起こす下準備は完了です。床とベッドという「形」の違いはあるものの、「質」はまったく一緒です。
次回は実際に起こしていく過程で、床とベッドでどう繋がってくるかを紹介します。
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