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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」

技術以前の身体の使い方(5)重心の軸

 重心の軸といってもイメージしにくいと思いますが、実は多くの場面で見られています。車椅子からベッド、トイレなどへの移乗、ベッドでの上体起こし、などなど実はすべての技術に活用できる体の使い方です。
 ただ、実際の技術の中では見えにくいため、ここでは立っている人を抱え上げるというシンプルな動きを設定して、重心に軸を実感してみましょう。
 重心の位置ですが、ここでは分かりやすく骨盤と考えてみます。ポイントは相手と自分の骨盤を一直線に重ねられるかということです。
 前回行った機能的なジグザグな姿勢で、窪んだ胸から腹の中に相手の骨盤をすっぽりと包み込むようにします。すると、相手と自分の骨盤が一直線に重なります。(写真1)
okada081104-1.jpg
(写真1)

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 そのまま重心の軸を保ったまま垂直に上げると、ほとんど力感や負担がなく、スッと持ち上げることが可能になります。(写真2)
okada081104-2.jpg
(写真2)

 しかし、骨盤と骨盤が離れた状態ではかなりの力を出さなくては持ち上がりません。(写真3)
okada081104-3.jpg
(写真3)

 例えば、ダンボール箱を持つ場合、誰もが自分にピタリと近づけて持ち上げます。誰も体から離して持つ人はいません。我々は無意識のうちに重心の軸を作っていたのです。
 しかし、人間が相手になると、なかなか軸を作ることが困難になり、実はほとんどの方が写真3のように骨盤と骨盤が離れて、軸がズレた姿勢になっているのです。「自分はそんなはずない」と思うかもしれませんが、他の人に見てもらったり、動画に撮って確認してみると、骨盤と骨盤が離れているのが分かるでしょう。その姿勢から腕力で相手を引きつけて抱え上げるため、腰痛のリスクがかなり高まります。
では、なぜ骨盤が離れてしまうのでしょうか。実はつま先が前を向いた状態だと、骨盤を近づけようとしても腰が反ってしまい、これ以上近づけません。ところが、つま先を相手に近づけるにつれて、外に広げていくと骨盤と骨盤はピタリと重なり、重心の軸ができます。
 ただ、つま先を広げても近づけられない方も多くいます。それは背中、腰、股関節が硬いため、軸を作るために必要な姿勢がとれないのです。だからこそ、技術以前の体の動きを見直す必要ことがとなってきます。
 次回からは実際の技術に入っていきますが、常に体の使い方を意識して技術を行っていきたいと思います。


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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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