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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」 2008年11月

介護技術の実践 長座からの立ち上がり(1)

 今回から実際の介護技術を通して、筋力に頼らない、身体に負担をかけない動きの質を追求していきたいと思います。
 まずはじめに、現場での困難事例を取り上げます。
 ベッドや車椅子への移乗がうまくいかず、介護を受ける方がずり落ちてしまった、あるいは、畳や床に座ったまま立ち上がることが困難になってしまったなど、座位や長座位からの介護は、ある程度ご自分で動ける方なら、動きを引き出す方向で介護ができますが、動きを引き出しにくくなった方の場合、「結局、筋力に頼るしかない」と力まかせになりがちです。
 そして頑張りすぎた結果、腰を痛めてしまったということも現実に聞きます。(写真1)
okada20081125-1.jpg
(写真1)



技術練習・実践での注意点

 以前行った介護専門職向けの講習会で腰を痛めてしまった方がいました(仮にAさんとします)。
 Aさんは40代後半の女性で、10年以上の経験もあり、現場ではリーダー的な存在です。講習会当日も先頭に立って周囲を引っ張っていくタイプでした。しかし、少々頑張り過ぎてしまう傾向があり、力まかせにケアをしようとしていたことが気になっていました。
 「少しでも力まかせになったら腰を痛めますから、絶対に無理なさらないでくださいね」
と何度か声をかけたものの、リーダーとしてできないことは恥ずかしいという意識から、すぐに力まかせの技術に戻ってしまいます。



スタートは身体から

 11月11日が「介護の日」ということで、今回はそれにちなんで、介護に対する私の考え方をお話ししたいと思います。

 現在、介護が置かれている環境はこれまでにない厳しさだと思います。介護保険などの制度的な問題、低賃金、重労働などによる介護職の離職、老老介護をはじめとする家庭介護の深刻化など、数え切れない様々な問題が次から次へと押し寄せてきています。
 そんな中、どこから手をつければ良いのかわからず、途方に暮れてしまっているのが現状のように思えます。どれも深刻で、一朝一夕に解決できるような簡単な問題ではないのですから。そうかと言って、「介護はやはり心!」と極端な精神論に行ってしまうと、かえって解決から遠のくことにもなるでしょう。やはり、具体的な方法論を探らなければなりません。



技術以前の身体の使い方(5)重心の軸

 重心の軸といってもイメージしにくいと思いますが、実は多くの場面で見られています。車椅子からベッド、トイレなどへの移乗、ベッドでの上体起こし、などなど実はすべての技術に活用できる体の使い方です。
 ただ、実際の技術の中では見えにくいため、ここでは立っている人を抱え上げるというシンプルな動きを設定して、重心に軸を実感してみましょう。
 重心の位置ですが、ここでは分かりやすく骨盤と考えてみます。ポイントは相手と自分の骨盤を一直線に重ねられるかということです。
 前回行った機能的なジグザグな姿勢で、窪んだ胸から腹の中に相手の骨盤をすっぽりと包み込むようにします。すると、相手と自分の骨盤が一直線に重なります。(写真1)
okada081104-1.jpg
(写真1)



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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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