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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」 2008年09月

少しずつ出来ることを増やしていくこと

 前回、介助技術が出来るようになるためには、講習や本の内容をそのまま真似をするのではなく、自分に合わせた工夫をしながら、オーダーメイドの技術を作り上げていくことが重要とお話をしました。
 そうなると、一体いつになったら出来るようになるんだと、不安になられる方もいるでしょう。確かに、前回は「いつになったら出来るのか?」という問いに答えるはずでしたが、見方によればまったく答えになっていませんでしたから(苦笑)。
 そこで、「出来る」とは何かを考えてみましょう。
 おそらく、座り込んだ状態の方を力みもせずに立ち上がらせたり、全介護状態の方を車椅子からベッドへラクラクと自在に移乗させるのが「出来る」ことだと、大多数の方が思われているでしょう。しかし、それを「出来る」状態にしてしまうと、ほとんどの方は途方に暮れることになるでしょう。出来たらいいけど、私には無理だなぁ…と。
 そこで、「出来る」のルールを変えてみましょう。



どのぐらいの期間で出来るようになるのか!?

 講習会や本の技術で必ず聞かれることに、
 「どのぐらいしたら古武術介護が出来るようになりますか?」
 というものがあります。
 古武術という響きに、「秘伝」や「気の力」や「裏技」なんかがあるのではと期待したものの、そのようなものは予想外になく、地道な取り組みが必要だと分かった時に、つい聞きたくなってしまうのでしょう。
 そんな質問に私はこう答えています。



脱マニュアルのために

 講習会を行う時に、私は必ず言うことがあります。それは、
「ここで紹介した技術は私なりの考えのもので、皆さんは真に受けず、あくまでも参考にして自分の技術を作るための「素材」として活用してください。」
 ということです。
 通常、私たちは講習会や何かを学ぶ時には、課題として出されたものを何とか出来るようにしようと頑張ります。そして、出来たものを基盤に次のステップへと進んでいきます。
 介護技術の場合も同じと言えるでしょう。しかし、数時間の講習会で出された課題技術が全て出来るようになるのは、よほど才能がある人以外は困難だと思います。
 そして、それらの技術が講習会で出来たからといっても、介護の現場で使いこなせるかというと、現場はそんなに甘くないと誰もが思われるでしょう。



介護以外にも広がる身体の活用

 前回は古武術介護とはニックネームであり、その本質は実践的な身体運用理論であり、野球チームにたとえれば身体運用は「監督」、介護技術は「選手」というお話をしました。
 そう考えると、チームの選手は介護技術だけでなくてもいいのではと、思えないでしょうか。野球でも、ピッチャーをはじめキャッチャーや内野手、外野手、それぞれが役割を持ってチームが機能しています。
 身体というチームがあるとすれば、介護技術はチームの一選手であり、それ以外にも、身体が行う動きの数だけ様々な選手が現れてくるでしょう。
 それは身体運用という視点を持つことにより、介護だけではなく、様々な動きに応用することが可能になるということなのです。



古武術介護とは身体の監督

 前回は古武術介護とはニックネームであるということをお話ししました。今回は、その本質は何かということを伝えていきたいと思います。
 私は足掛け3年以上にわたって介護技術の研究会を毎月行っています。しかし、その介護技術の研究会はとても変わっていて、介護技術をほとんどしないのです。その代わり、いかに筋力に頼らず、身体に負担をかけない動きが出来るかということを、楽しみながら取り組んでいます。
 そのため、歩く、走るなどを工夫したり、または一見すると力比べのような遊びをしたり、棒などを使って武術風の動きをしてみたりと、初めて来た方は「介護の技術をしにきたのになぁ~」と戸惑うようです。ましてや、取材に来た方は「頼むから介護技術をしてください」と目で訴えてきたり(苦笑)。



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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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