全てを味方につける発想
今まで古武術介護の成り立ちを振り返ってくる内容でしたが、今週は少し脇道にそれて、ブログならではの、今日の出来事を綴ってみたいと思います。
今日は会津若松にあるコンピューターによる動作解析を行う会社でモーションキャプチャーの実験をしてきました。実際の実験は市内にある会津大学内の研究室で、学生の皆さんが中心に実験を進めてくれたのですが、そのレベルの高さに脱帽。一台数百万円もするような専用カメラをはじめとする撮影、測定機器が何台も取り囲むハイレベルの環境。そして、それらの機器を使いこなす、匠の技とでも呼びたくなる腕前。同行した看護学校の先生方も、
「最近の日本の若い子たちは…とつい言いたくなるけれど、この大学の学生さんたちを見ていると、そんな心配もなくなるくらいね~」
と感心することしきりでした。
基本技術は本当に使えないのか!?
ヘルパー講座で、雑談として、武術の動きをヒントにした介護技術をしたところ、受講生の皆さんの反応は想像以上にありました。
「だって、テキストの技術って現場じゃ通用しないでしょ」
ある受講生の方は自身の現場の体験を踏まえて言い切りました。
「よく職場の研修で介護の基本技術って教えられたけど、誰もまともに取り組まなかったよね。今回もヘルパー資格を取るためだと割り切って来たから、期待なんてしてなかった。でも、この技術は初めて現場で通用する希望があるんじゃないかなと思えましたよ」
その当時は自分も考えが浅かったため、教科書的な基本技術は、いわば机上の空論だと考えていました。現場から見たら、そんなところもないとは言い切れないかもしれません。
ヘルパー講座の熱心な雑談
ホームヘルパー講座の講師として、介護技術は当然テキストの内容を忠実に教えるように言われていました。
しかし、ただテキストをなぞるだけでは、生徒さんはついてきてくれません。生徒さんはすでに施設などで働かれていたり、福祉関係の就職を希望されていたり、家庭介護の経験があるなど、実際に使うことを想定している方がほとんどでした。だからこそ、現場の経験で培われた技術を知りたいという方が多くいました。
ある時、ベッドで上体を起こす方法を一通り終えた休み時間に、ある一人の生徒さんから質問を受けました。
「教科書的な方法は、ある程度動ける人に自分で起きてもらう方法じゃないですか。でも、私が介護している祖母は、手足をほとんど動かせないので、介助するときに凄く力が必要なんです。そんな状態の人を上手く起こせる方法はないんですか?」
真似ではなく工夫する
長座からの立ち上がりをする「添え立ち」の他に甲野師範が見せてくれた介護系の技術として、「上体起こし」がありました。
道場の畳の上で横になっている方の肩を、普通なら手の平から抱えていくところが、手の甲から差し入れ、手首を返して手の平から抱えたのです。
手の平から抱えていくと、肩が上がってしまい、抱えにくくなります。ところが、手の甲から差し入れ、手首だけを返していくと、肩は上がらず、しっかりと相手を抱えることが可能になります。また、受けた側の感想としても、しっかりと全身で包み込まれたような安心感がありました。
その状態から、相手を横向きにして肩甲骨下に膝を入れ、軽く左右に揺らしをかけ、相手の反応を引き出しながら、筋力で起こすのではなく、自らの倒れる力を利用して起きる動作を誘導したものでした。
相手は一切手伝いができない全介護状態という設定にもかかわらず、起こされたというよりも、自然に起きてしまった感覚でした。