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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」

夜勤明けの眠れぬ午後に

 2000年のある日の午後。夜勤明けでしたが、疲れすぎてかえって眠れないので、テレビをぼんやりと眺めていました。
 リモコンでチャンネルを変えていると、不思議な人物が目に飛び込んできました。
 袴姿のその人物は正座のまま、まるでホバークラフトのように畳の上をくるくると自由自在に動き回っていました。その後、日本刀を抜く動きを見せるのですが、明らかに異質の動きなのです。まるで気配がなく、いつの間にか刀が抜かれている。動きも滑らかで流れるような美しさを感じさせる。
 眠気は吹っ飛び、画面を食い入るように見つめていました。
  どうやら、その人物は古武術を研究している武術家で、現在の筋力を中心とした動きとは違う動きを追求しているらしい。
 介護も格闘技も最終的にはやはり筋力だよなぁ…と思っていた自分にとっては、テレビで見た武術家の動きは、たった数分間でしたがとても衝撃的でした。
 しかし、その時は単純に「凄いなぁ」と思っただけでした。正直、自分とは遠い世界、達人だからできることだと思い、その武術家を調べるでもなく、いつの間にか忘れてしまいました。

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 そして4年後の2003年の秋。またしてもぼんやりとリモコンをいじっていた時に、不思議な気配を画面から感じました。
 「あっ、もしかしてあの時の武術家では!?」
 NHK教育テレビで「古(いにしえ)の武術に学ぶ」という連続講座があり、その講師を担当していたのは、甲野善紀師範。
 「間違いない、あの時の武術家だ」と、眠っていた記憶が目覚めました。
 筋力に頼らず、「うねらない、ためない、ひねらない」など、現在の運動理論と正反対の理論。しかし師範の解説は「気の力」や「秘伝」といったことは一切なく、非常に論理的で、「なるほどなぁ」と思えました。これは、筋力に頼らない技の世界ってあるのかもという思いを強めていきました。
 インターネットで検索をすると、すぐにホームページが見つかり、講習会も定期的に行われていることがわかりました。しかも、希望すれば甲野師範の技を受けられるという。また入門という形でなく、1回完結というスタイルなので、参加しやすい。
 これは何かの縁だと勝手に思い、ただただ筋力ではない「技」を受けてみたいという興味だけで、講習会に参加することになりました。
 この時点では、まさか武術と介護が結びつくなんて、夢にも思っていませんでした。


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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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