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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」

はじめて武術に触れた日

 甲野師範の動きをテレビで見て、筋力に頼らない「技」を体感したいと思い、さっそく都内で開かれる講習会に参加をしました。
 体育館の武道場にはおよそ100名の参加者。柔道、空手、合気道、剣道など、道着を着ている武道関係者以外にも、師範が提案する武術的な身体運用に対する関心からスポーツ関係者も多く、オープンな雰囲気でした。
 主催者から講習会の説明がありました。一般的な講習会と違い、師範の技を体験しながら説明を聞き、質疑応答をしていくスタイルとのことです。
 やがて、甲野師範が登場。思ったより小柄で細身(170cm、62kg)。ただ歩く、座るなどの身のこなしが無駄なくきれいな人だなぁと見入ってしまいました。
 はじめに礼をして、それ以降は特に決まった流れはなく、最近師範が取り組んでいる技の説明から始まりました。

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 ラグビーやレスリングのタックルに対応する技で、通常ならばがっちりと受けとめてしまうところを、甲野師範の場合、あえてがっちり受けずに逆に足裏を浮かすような感覚で対応すると、相手はあっけなく転がされてしまうというものでした。
 何人もの参加者が技を受けては転がされていく姿を見て、内心「本当かな……!?」と思いつつ手を挙げ、受けさせていただきました。
 自然体の師範に対して、全力で胴に向かいタックルを仕掛け、腰のあたりに手が触れたかなと思ったら、急に何も無くなりいつの間にか畳の上に転がっていまいした。なんだか狐につままれたような気持ちでした。
 甲野師範によると、がっちりと受け止めると、見方を変えれば相手と自分が協力をして釣り合いが保たれた状況ができてしまうそうです。しかし、あえて受け止めないことで、通常ならば受け止めてくれるという予測が外され、対応できなくなるから、あっけなく転がされてしまうとのことでした。
 なるほど、攻撃する側とされる側が、視点を変えれば協力し合っている。その無意識な「常識」を攻撃していく。武術の原理って奥が深いなぁと、はじめから感心しきりでした。その他にも、サッカーやバスケットなどでディフェンスを抜き去る動きや剣術、杖術、歩き方、走り方など、これまでの常識を覆す動きの数々を体感させてもらうことになりました。
 ただ、この時点では、こんな凄い動きは甲野師範だから可能なことで、有難いものを見て、体感させてもらえたという「お客さん」的な気持ちでいました。ましてや武術の動きが介護につながるとは思いもしませんでしたし、自分が積極的に取り組むことになろうとは想像もできませんでした。


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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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