空手に学ぶ介護術
前回、レスリングをしていた幼なじみから、タックルを応用した移乗動作を実演してもらったことをお話しましたが、彼の技術はもとより発想力の柔軟性は、その後の私の介護技術の進展に影響を与えてくれました。
そして同時期に、レスリングだけでなく、実は空手からも影響を受けていたのです。
偶然に出会った私より1つ年上の空手の師範は、19歳で自身の道場を開くなど、才気溢れる人でした。そして、一人暮らしをする私に、
「家族と離れて住んでいるんだから、何かあったら言ってよ。力になるから」
といつも兄のように接してくれる優しさと強さを持った人でした。そんな師範から、「岡田くんも青春の記念に試合でも出てみたら…」と勧められ、
「いいですね~。一度くらいならやってみたいです!」
今まで空手の経験はないのですが、そこから始めることになりました。
ところが、実際にスパーリング(練習試合のようなもの)をして、一気に弱気になってしまいました。師範の空手は、実際に当てる実戦空手。また空手にとどまらずボクシング、キックボクシング、柔道、レスリング、まだ草創期だった総合格闘技にいたるまで実践的に研究していたため、まさになんでもありの状況。
ボコボコとはこういうものかと、すっかり落ち込む日々。本当に話しにならないくらい弱すぎた自分でしたが、そんな中唯一の得意技ができました。
それは、「クリンチ」でした。
いつも殴られ、蹴られていたため、すぐに組み付き体勢を入れ替えることをしていました。その動きが「クリンチ」です。そこから、場合によっては相手を投げることも可能になってきました。本来ならば、パンチや蹴りを磨くはずなのに、いつも逃げることばかり考えていました…。
そうそう、ボクシングの世界タイトルマッチで亀田選手が内藤選手を投げてしまった動きといえばイメージできるでしょうか。ボクシングでは反則でも、師範の道場では問題なし。ただ、投げた後は10倍返しが待っていましたが(苦笑)。
そのクリンチの動きが、ある時介護にぴたりとはまったのです。
全介護状態の方の移乗動作をするとき、相撲のがっぷり四つの体勢で行っていたのが苦しくなり、ふと、クリンチの動きをしてみようと思った時がありました。
介護を受ける方の腋窩(わきの下)に首を入れ、首を入れた方の手を膝裏に反対側の手を腰にまわし、立ち上がりをすると、いつになく軽く介護できたのです。
「これは、何かあるかも!!」
受けた方の反応も表情が穏やかで、いつものように眉をしかめるようなこともありません(全介護で話すこともできない状態の方でした)。
ここから、自分自身で技術を開発していこうという気持ちが芽生えっていったのです。
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