レスリングに学ぶ介護技術
全介護状態の方をベッドや車椅子、トイレなどに移乗する際、基本的な方法を応用して行っていましたが、周囲には腰を痛める職員が多く、自分自身も腰に常時張りがあり、いつ腰を痛めてもおかしくない日々を過ごしていました。
行っていた方法は、相撲でたとえると、まわしをつかんで吊り上げるような感じでした。もちろん、介護の基本という視点ではいけないことでしょうが、現実にはそうなってしまうから仕方がないと、半ば諦め気味のムードすら漂っていました。
そんな中、幼なじみでレスリングインターハイ優勝者のHにその現状を何気なく相談したときに体感させてくれた技術は、驚きを与えてくれました。
椅子に座っている状態から、相手の右脇の下に頭を入れ、右手で膝裏を抱え、左手は握らず、腰にまわしているだけの体勢になります。
何しろHは180cm、120kgという体格の持ち主ですから、筋力によって引っこ抜かれるように持ち上がるのかなと身構えました。
しかし、予想はまるっきり正反対に裏切られました。力まかせという感覚はまるでなく、「ふわり」と浮かぶような感覚で持ち上げられたのです。
驚いて、今どんなことをしたのかとたずねると、
「レスリングのタックルを応用したんだよ」
まさか介護にレスリングの応用が役立つなんて!
しかし、あの「ふわり」という感覚は、精神論ではない、確かな技術に裏づけられたものだろうと確信しました。それから、Hは詳しくレスリングのタックルの入り方、持ち上げていくときの感覚、技術を一つひとつ丁寧に体感させて、教えてくれました。
Hは海外選手との対戦実績もあり、そこで筋力に頼る技術の限界を感じたといいます。日本人がいくら鍛えても海外の選手にはどうしても体力負けするし、その差は縮まりにくいと。
そこで行き着いたのが、技術を高めること。しかも、指導者から教えてもらったことを従順に練習するだけでなく、自分自身に合った技術を自ら工夫して、開発していったのです。つまり、自分だけのオリジナル技術の開発でした。
「そうか!」
技術の凄さ以上に、Hの発想の柔軟さに衝撃を受けました。
「基本が大事」と固定概念に縛られ、自ら工夫することを忘れていたことが一番の問題であったのではないかと、Hのレスリングに対する姿勢から気がつかされた瞬間でした。
それ以降、技術をコピーするのではなく、オーダーメイドの技術を開発していこうという発想が生まれたのです。
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