何も知らずに介護へ
福祉人材センターから紹介されるがまま、運よく新設の重度身体障がい者施設に就職。
高校時代、職業適性検査で「対人関係の仕事が向いている、営業職、医療、福祉関係など」と書かれていたこともあり、まぁ何とかなるだろうと思っていました。
ところが行ってみると、そんな甘えた気分は一気に吹き飛びました。
例えばオムツ交換。まるでしたこともないばかりか、見たことすらない状態。一応研修はあったものの、実際に行うのは全然感覚が違いました。しかも布オムツのため、交換している時に崩れてしまい、慌てふためくことも度々。ましてや、排便の場合などは焦ってシーツや衣類まで汚してしまうことも…。
それでも、優しい方が多く、「はじめてなら仕方がない。どうせ暇なんだから、俺で練習しろよ」なんて声をかけてくれたり。自分自身が利用者の方々にリハビリをしてもらっているような感覚でした。
忙しくも充実した日々を久しぶりに過ごしている嬉しさもあり、介護に就職して良かったと心から思えました。
しかし、気持ちの充実とは裏腹の問題もありました。
ニート脱出、介護の世界へ
専門学校に行っていないことが親にバレてしまい、とにかく就職活動をすることになりました。
3年間もふらふらしていた自分には、したいことが何もなく、ただ漠然と就職情報雑誌などを眺める日々。
そんな時、福祉作業所のボランティアに久々に行き、職員の方との雑談で、
「親に学校行ってないのがバレて、就職しなくちゃならなくなったんですけど、別にしたいこともないし……。どうすればいいですかね……」
と、ダメ人間丸出しで聞くと、
「とりあえず、ここのボランティアは来ていたんだから、福祉系の仕事をしてみればいいんじゃないの?」
そうか、その手もありだなぁと思うと、
「福祉人材センターというのがあって、そこに行けば福祉の求人を紹介してもらえるから。考える前にとにかく行ってみろって!」
とまだ若い、兄貴分のような職員は背中を押してくれました。
単純な自分は、本当に何も考えずに福祉人材センターに行っていました。
一口に福祉の仕事といっても幅は広く、何の知識もない自分にはどこがいいのかすら見当もつきません。
そこで、相談窓口で聞いてみることにしました。
自堕落な日々、そして専門学校中退
大学受験失敗、予備校中退、その後入学した専門学校も行ったり行かなかったりの中途半端な日々を送っていた20歳の頃。
ある日の昼休み、学校の門の前でボケッとしていると、誰かが声をかけてきました。
「大丈夫? 何かあったの?」
学校の目の前にある福祉作業所の利用者さんたちでした。かなりの時間を同じ姿勢で、下を向いて、何をするでもなくいたので、かなり心配したとのこと。
「何もやる気がおきなくて、だからボーっとしてしまって…」
とぐったりしながら答えると、
「じゃ、ウチにおいでよ」
と福祉作業所に来るように誘ってくれたのです。
学校の授業に出る気もなかったので、教室からカバンを持ってきて、勝手に早退。
福祉作業所に行くと、
「今日は仕事がたくさんあるから、助かるよ。早速、これをやってよ」
と職員の方に言われるまま、紙製のお弁当箱の組み立てをしました。最初はぎこちなかったものの、慣れてくると、組み立てながら周りとおしゃべりをしながら、どんどんと作業が進んでいきました。
介護前夜 ニートだった頃
今回から技術の説明に入るというのではなく、まずは、自分がどういう経緯で武術と出会い、現在の活動に至ったかを、しばらくお話ししていきたいと思います。
すぐに技術をと期待していた方には申し訳ありませんが、最初に考え方を伝えたいのです。テレビ等で取り上げられるような派手さは、あくまで誇張であり、実際はとても地道なものです。その意味からも、技術の基盤となる考え方や身体運用理論をきちんと伝えた上で、はじめて技術を紹介したいと思います。
私はもともと介護の仕事をしようと目指していたわけではありませんでした。
ちょうど今から18年前のことになります。
高校時代、文化祭活動などに熱中して、まったく勉強をしていなかったため、大学受験にことごとく失敗。「浪人すればなんとかなるだろう」と予備校に行くものの、元来、怠け者な性格のため、一か月くらいで朝起きられなくなり、ズルズルと出席しなくなり、中退してしまいました。
「古武術介護」を知る前に
「古武術」と「介護」、なんだそれは!?と違和感を持たれた方も多いでしょう。
また、テレビや雑誌なんかで見たことあるぞ、なんて方もいるでしょう。
「古武術介護」とは、武術研究者である甲野善紀氏の提唱する筋力に頼らない、身体に負担をかけない武術の身体運用を参考に生まれた身体介助技術として紹介されています。
介護の現場はマニュアル通りに上手く進むことはまずないと言っても言いすぎではないと思います。現場は例外だらけで、その例外にいかに対応できるかというのが、専門職だけではなく、家庭介護の現場でも求められてくると痛感しています。
そんな厳しい介護の現場において腰痛などで身体を痛める方は相当数にのぼります。ある調査では70パーセント以上の方が身体の痛みを訴えているといいます。介護する人が介護されてしまう、と自虐的に言う方がいますが、切実感が漂う言葉です。