研究と実践
「丈夫で長生きをする」というためには、生命の根源とも言うべき心臓を大切にすること。つまり、心臓によけいな負担をかけないことが何より大切である。
高血圧や肥満は、この負担の代表的なものとして知られている。この課題は今も昔も変わらない。
昭和53年当時は、「亡国病」といわれた脳卒中の発生率を、高血圧者頻度(40~69歳男子)でみると、秋田県がいちばん多く、次いで群馬県上野村などが上位を占めていた。
今でこそ上野村は、日航機の事故現場としてその名が突如浮上し、道なき道もつくられ、人の出入りが多くなったが、それ以前は山深い山村であった。
藤岡保健所・所長の大槻邦夫医学博士は、高血圧患者の多い地域の保健行政を担当したことから、減塩対策に乗り出した。
食塩0.5gを一単位として把握する方法を自ら考案し、「減塩食の実践」を通じて毎日の食事を考え、食塩の過剰摂取を解決し、長寿時代にふさわしい食生活習慣を確立するなどを目標に、医師・保健師・栄養士などと協力して徹底的な減塩食対策に取り組んだ。
縁あって、私もこのチームに参加させていただいた。
当時、日本の脳卒中死亡率は世界一とも言われていた。特に、働き盛りの年齢層に脳卒中死亡率が非常に多く、高血圧は脳卒中多発の原因とされていた。
そこで、「減塩・高カリウム食」の対策のもと、各家庭の食生活調査をし、分析した結果と、その個人別の健康状態をチェック、日常の塩分摂取量と健康状態を比較検討した。
その結果、明らかに高血圧者ほど塩分摂取が一日15g前後と高く、そのうち約70%が塩、しょうゆ、みそなどの調味料から摂取していた。あとは佃煮類などの加工品、漬け物などから多くとられていたことがわかった。
また、塩分の体内備蓄を防ぐカリウムと食物繊維などを多く含む食品(野菜、海藻、果物など)が不足していた。
そこで、集団検診を始め、家庭訪問による食生活調査・指導を実施し、村民と保健所が一体となって取り組んだ結果、約3年後にはその効果が徐々に表れ、数年後には日本で脳卒中死亡率が上位だった上野村は、下位へと逆転した。
その成果は高く評価され、全国で減塩食活動は今も続き、現在日本での死亡率一位は「がん」となった。
この調査・研究の方法、事例などを、主婦の友社健康ブックスに大月邦夫先生との共著で出版した。タイトルは『血圧を下げる減塩食』。昭和53年・第1刷発行より、第6刷くらいまではあっという間に売れていたことを記憶している。
大月先生ご自身が考案された、「塩分交換表」は最近改訂され、より充実した本として活用されている。
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